霧の中の的
― 弓彦と的姫の物語 ―
【導入】この物語を読む前に
「なんで分かってくれないの?」
大切な人に対して、そう思ったことはありませんか。
不思議なもので、どうでもいい相手には思わないんです。近い人にだけ、そう思ってしまう。好きだから。大切だから。この人には分かってほしいから。
だから余計に苦しい。
「言わなくても分かってよ」
その気持ち、痛いほど分かります。
だって、言葉にするって怖いじゃないですか。自分の心を開くって、勇気がいるじゃないですか。それに、言わなくても分かり合えたら、それってすごく素敵なことのような気がする。
でもね。
ここで一つだけ、考えてみてほしいんです。
あなたが「分かってくれない」と感じているとき、相手はどんな気持ちでいるんだろう、って。
もしかしたら相手も、必死にあなたを分かろうとしているのかもしれない。でも、どこを目指せばいいか分からなくて、途方に暮れているのかもしれない。
今日お話しするのは、そんな二人の物語です。
弓彦という男の子と、的姫という女の子。
この物語を読み終えたとき、あなたの中で何かが動くかもしれません。
動かないかもしれません。
でも、もし何かを感じたら、それを大切にしてほしいんです。
さあ、始めましょう。
第1ページ:深い霧の中、立ち尽くす弓彦と的姫。
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【解説】物語を読み終えたあなたへ
読み終わりましたか。
どうでしたか。
何を感じましたか。
正解はありません。あなたが感じたことが、あなたにとっての答えです。
ただ、僕がこの物語を通して伝えたかったことを、少しだけ話させてください。
愛するということ
風の賢者が言った言葉を覚えていますか。
「好きっていうのは、相手を試すことじゃない。一緒に進んでいくことなんだ」
この言葉が、この物語のすべてだと思っています。
「言わなくても分かってほしい」
これは、裏を返せばこういうことです。
「私のことを本当に大切に思っているなら、言わなくても分かるはずだよね?」
つまり、テストなんです。
霧を晴らさないまま、「当ててみて」と言っている。当たらなかったら、「やっぱり私のこと分かってないんだ」と悲しむ。
でもね、ちょっと待ってください。
生まれて初めて弓を持った人が、霧の中の的を当てられますか。
当てられないですよね。
それは愛がないからじゃない。能力がないからでもない。
見えないものは、当てられない。
ただ、それだけのことなんです。
霧を晴らすということ
じゃあ、どうすればいいのか。
的姫がしたことを思い出してください。
彼女は、霧を晴らしました。
「私は、話を聞いてほしいだけのときがあるの」
「私の的は、ここにあるよ」
自分の気持ちを、言葉にしたんです。
簡単そうに見えますか?
全然、簡単じゃないんです。
だって、自分の心を開くわけですから。「こんなこと言ったらわがままかな」「重いって思われるかな」「引かれたらどうしよう」。そんな不安を乗り越えて、それでも言葉にする。
それには、勇気がいる。
でもね、その勇気を出した瞬間、何かが変わるんです。
的姫が言葉にしたとき、霧が晴れましたよね。弓彦の目に、初めて的が見えた。
それまでどれだけ頑張っても当たらなかった矢が、やっと的に向かって飛び始めた。
霧を晴らすのは、相手のためだけじゃないんです。
自分のためでもある。
だって、霧の中にいたら、自分の的がどこにあるかも分からないでしょう?
言葉にすることで、自分の気持ちが初めてはっきりする。「ああ、私はこれを求めていたんだ」って、自分でも分かるようになる。
霧を晴らすって、そういうことなんです。
褒めるということ
もう一つ、的姫がしたことがあります。
弓彦の矢が少しでも近づいたら、褒めたんです。
「おしい!方向は合ってるよ」
「近づいてきた!」
「その調子!」
これがね、本当に大事。
僕たちはつい、「当たったかどうか」で判断してしまう。
当たってなかったら、「まだダメ」。当たったら、「やっとできた」。
でも、その間にある「成長」を見落としてしまうんです。
最初は的の方向すら分からなかった人が、だんだん近づいてきている。それって、すごいことじゃないですか。
「まだ当たってないじゃん」
そう言われたら、弓彦はどう感じたでしょう。
きっと、弓を置いてしまったと思います。「どうせ俺には無理だ」って。
でも、的姫は「近づいてきたね」と言った。その言葉が、弓彦の力になった。
人は、認められると伸びるんです。
聞くということ
今度は、弓彦の話をしましょう。
弓彦がしたこと。
それは、的姫の言葉を聞いたということです。
「もうちょっと右だよ」と言われたら、右に調整した。
「そこじゃないよ」と言われたら、素直に受け止めた。
これ、当たり前のようで、意外とできない人が多いんです。
「いや、俺はこう思うから」
「そんなこと言われても」
「分かってるよ、うるさいな」
こうやって、相手の言葉を跳ね返してしまう。
でもね、それじゃあいつまでも的には当たらないんです。
的がどこにあるか知っているのは、的姫だけなんだから。
弓彦は、それを分かっていた。だから、的姫の言葉に耳を傾けた。プライドを捨てて、素直に聞いた。
聞くって、愛なんです。
「あなたの言葉を、僕は大切にするよ」
そういうメッセージなんです。
時間がかかるということ
物語の中で、弓彦が的のど真ん中を当てるまで、何年もかかりましたよね。
僕たちはつい、すぐに結果を求めてしまう。「もう何回も言ったのに」「いつになったら分かってくれるの」。
でもね、人が変わるのには時間がかかるんです。今日言ったことが、明日すぐにできるようになるわけじゃない。
「まだ」じゃなくて、「もう少し」。そう思えるかどうかで、全然違うんです。
育てるということ
理想の相手は、最初からいない。
「私の気持ちを完璧に分かってくれる人」なんて、最初から存在しないから。
でも、育てることはできるんです。的姫は、弓彦を育てました。
最初から「私を分かってくれる人」を探すんじゃない。
この人を「私を分かってくれる人」に育てていく。それが、本当の意味で「運命の人」を作るということなんじゃないでしょうか。
二人で歩くということ
最後に、もう一度、風の賢者の言葉を思い出してください。
「好きっていうのは、相手を試すことじゃない。一緒に進んでいくことなんだ」
どちらか一方だけじゃ、うまくいかない。
二人で一緒に進むから、うまくいく。
これが、この物語の答えです。